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【展覧会レビュー 】 りんご前線 — Hirosaki Encounters|幽霊はりんごしか食べない / 奥脇嵩大

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つまるところ過去・現在・未来は等価である。「りんご前線」はそこで働く。佐野ぬい「明日のテーマ」におけるロッキングチェアは過去と未来を行き来する揺りかご。画業70年を経た作品の青は、輝きと透明さを増す一方で透明ゆえに絵画表層に留まり、画面に不在の奥行き-幽霊をまとわせる。今ここにある進捗と停滞の不思議さを見よ。そのとき本展示は時空間を素材に描かれた作家のタブローそのものとなる。

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小林エリカ「旅の終わりは恋するものの巡り逢い」は、誤解を恐れずいえば幽霊をまなざす作品。本作素材のうち写真、映像、テキストには共通要素があって、それは複製可能な断片ということだ。断片は多いほど不在の主体-幽霊を弱々しくも確かな形で現実に想起させる。そこでオブジェやドローイングとは不在を受肉するための白々とひそやかな骨。それらは作品体験を鑑賞者が分有する展示行為を介して、作品を私たちの存在をめぐる物語として再帰させる。

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斎藤麗「ウィンター・ドーナッツ/イワキサン」もそうした再帰性を手がかりに、身近な素材を駆使して弘前の土壌(テロワール)を鑑賞者に分有する作品として見ることができるだろう。こうしたグループ展はともすれば鑑賞者に自閉した印象を与えるが、前線-複数の状況下において複数のモノが入り混じる場-が接続された本展はそうした印象から遠い。

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弘前で培われた村上善男の種々の仕事の断片で構成される「北奥百景」。会場内仮設の彫刻スタジオで自らを促成栽培されるりんごになぞらえ、近代彫刻を換骨奪胎するかのような制作に取り組んだ塚本悦雄の「津軽モンタージュ」。

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そして「弘前エクスチェンジ#4 りんごのテロワール(土壌)についての試考」が地域からの応答として実によく効いている。ケリス・ウィン・エヴァンス作品が示した、それら一切を展示空間内でつなぐ軸木としての役割も見逃せない。個々に細かくふれることができないのが心残りだが、地域の過去を鋤き鋤きスキき込み現在から未来を育む意志がにじむ本展は、かつての/これからの幽霊としての私たちが、自ら生み出し自ら養うことができる数少ない滋養あふれる果実そのものであった。

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◎奥脇嵩大(青森県立美術館学芸員)

◎撮影/柴田祥
(1枚目)
奥:ケリス・ウィン・エヴァンス《Drawing in Light (and Time) ...suspended》
手前:斎藤麗「ウィンター・ドーナッツ/イワキサン」
(2枚目)
佐野ぬい「明日のテーマ」
(3枚目)
小林エリカ「旅の終わりは恋するものの巡り逢い」
(4枚目)
斎藤麗「ウィンター・ドーナッツ/イワキサン」
(5枚目)
村上善男「北奥百景」
(6枚目)
塚本悦雄「津軽モンタージュ」
(7枚目)
りんごのテロワール(土壌)についての試考
2021年度 春夏プログラム
「りんご前線 — Hirosaki Encounters」

[会期]
 2021年10月1日〜2022年3月13日
[参加作家]
 小林エリカ、斎藤麗、佐野ぬい、塚本悦雄、村上善男
 +ケリス・ウィン・エヴァンス
[ウェブサイト]
https://www.hirosaki-moca.jp/exhibitions/hirosaki-encounters/


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