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【コラム】きっと誰も忘れないよ|小さな起こりエッセイ

今回は弘前エクスチェンジ#05ナラヒロの小さな起こりリサーチプロジェクトのメンバーで、2022年展覧会秋冬プログラム「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」(以下、もしもし展)の会場づくりサポーターとしても参加してくれた中林瑛南さんによるエッセイです。


テキスト執筆者より

はじめまして、小さな起こりリサーチプロジェクトメンバーの中林瑛南です。リサーチの活動がきっかけで、今回もしもし展のボランティアへのお誘いを受けました。
内覧会の日につけた日記に付け足しながら、感想をまとめてみました^^


9/16 もしもし展内覧会の日


わたしが美術館に着いた時にはすでにフォーマルな服装の偉い感じの人たちでいっぱいで、実際わたしも一応よそ行きの格好をして行ったのだけれど、それがなんだかすごくおかしかった。
ここに高校のジャージなんかで出入りしてたはずなのに!!

オープニングセレモニーでは思いがけず、弘前がいろんな人に愛されていることを知れた。
誰かにとって思い入れのある街で育ったのがうれしい。
本当にかわいらしくて素敵な街だ。

展示室1のことは、“毎日作業が続いていくお部屋”、“秘密基地”だと感じ始めていたから、お客さんには展示室の顔を見せているけれどもわたしたちボランティアには「内緒だよ」とニヤニヤと笑いかけているように思えて、やっぱりさっきみたいにおかしかった。

誰かが早々に「懐かしい」と言うのを聞けた時、美術館のスタッフのみなさんに教えたいという気持ちでいっぱいで、代わりに嬉しくなって涙が出そうになった。
みなさん心配になるくらい夜遅くまで準備を続けていた。
会期中いくらでもその感想が届いてほしい。

個人的に写真に興味があるから、展示室2は「うわ~〜!いい!」と少しハイだった♪
写真の、写真を撮った。
わたしが今日まで撮った写真は、たとえ稚拙でも、ここに展示されている写真と同じ意味を将来持つんだね。

永野雅子さんの展示風景より

青いワンピースで、この素敵な箱の説明をする細川さんはものすごく嬉々としてた^^

細川葉子さんの展示風景より

小屋を抜けると壁も天井も黒いお庭に聖歌隊調の歌声(奈良さんの選曲だそう!)が響いて、わたしたちの作ったガーランドが広がっていて、白昼夢みたいで正直少し怖かった。
山本さんがその真ん中に立って展示室を見回していたのが印象的だった・・・
会場の構成を担った山本さんだけが出せるかっこいい雰囲気をまとっていた。

展示室5は“どっちを向いても壮観!”になってた。
ボランティアの活動中、「奈良さんのレコードが展示のために飛び回っちゃったらその間レコードたちは奈良さんに聴いてもらえないんだね」なんて話をした。
でも迫力いっぱいに飾られているのを実際に見たらレコードたちも喜んでると思えた。

展示室4の、佐々木怜央さんの展示!!!
本当に素敵だった (;;)
展示室5までの暗い照明から途端に明るくなるのを味方にして、宝箱を開けたようだった。
写真を撮るのもおこがましい気がして撮れなかった。
わたしは佐々木さんが19歳の時に作ったと言う作品〈首を長くしてその先に何がある?〉が一番すき。
わたしももうすぐ19歳になるけれど、自分にはこんなに美しいものを作ったりできる気がしなくて、少し悲しくなってしまうほどだった。


・・・・・・・・・・


どこまで書いて良いのか分からないが、佐々木さんが緑地公園で木を眺めていたのでそのことを尋ねてみたらとてもおもしろいお話をしてくれて、わたしが将来進む分野のについても大切な視点を一つ増やしてくださった。
その日のことはずっと覚えていたい。

オープニングセレモニーで奈良さんが「弘前れんが倉庫美術館ならではの企画が出てきたと思っている。美術とは関係ない、土地に根ざしたコミュニティが美術によってつながっていくという、ひとつの理想的な関係」とおっしゃった時、小さな起こりリサーチでした佐々木さんへのインタビューでも似た言葉を聞いたことを思い出した。

わたしが今回の活動を通して一番に思うことは、多くの人に、他でもないこの企画展をきっかけにこの美術館をまずは身近に感じてほしいということだ。
弘前の人が、弘前の中に好きな場所をもうひとつ増やしてくれたら素敵なことだと思う。
美術館というとスタイリッシュで、なんとなく地域から浮遊しているものという印象があった。
けれども、展示品がいくつもずっと近くにあって、年齢もバラバラな初対面の方と一緒に活動して「えなちゃん」と呼んでかわいがってもらったり、美術館内でお昼ごはんをたべたり、
それはボランティアというよりも美術館に入り浸らせてもらった愛おしい時間で、美術館が自分にとって身近になりうるということを知った。

“生まれる前と記憶もないほど幼い頃”の弘前に飛び込んでみて、3回の展覧会とそれに関わる人々のものすごく大きなエネルギーをわたしも浴びた。
そしてわたしがしたいと思ったのは今の弘前から目を逸らさないこと。
抜け殻にならないように新しいものを取り入れながら、昔からあるものを大切に守り続けて、守れなかったものはしっかりと惜しむことのできる優しいこの街で暮らしていくことを肯定できた。

最後に、
ボランティアに来るたび、“I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.” という美しい言葉がわたしの目を離さなかった。
自分の足でその展覧会に行き、意味を感じてみたかったと一つ羨ましく思った。




小さな起こりリサーチプロジェクトとは

れんが倉庫が美術館へと生まれ変わる大きなきっかけとなった現代美術作家・奈良美智による2000年代に3度開催された弘前での展覧会(ナラヒロ)が、人や街にもたらした創造性や変化を探るリサーチプロジェクトです。展覧会にボランティアとして関わった方々や街の人たちへのインタビュー、あるいは資料のリサーチを通して、奈良美智展弘前がきっかけで生じた「小さな起こり」を探しにいきます。



テキスト・写真(中林瑛南/小さな起こりリサーチプロジェクトメンバー)