【インタビュー】小さな勇気からはじまる進化論|竹内めいさん
※このインタビューは弘前エクスチェンジ#05「ナラヒロ」小さな起こりリサーチプロジェクトの活動として取り組んでいます。
今回お話しを伺ったのは、前回のインタビューでお話しを伺った佐々木怜央さんと同じく、高校生の時に「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」(2006年)のボランティアに参加した経験をもつ竹内めいさんです。幼い頃から絵を描くことが好きだったという竹内さんは、現在はWeb・フライヤーのデザイン制作を行なっています。高校生ながらに自ら進んでボランティアに参加することを決めたという竹内さんですが、その動機やボランティア経験で得たもの、そして現在の活動についてお話しをお聞きしました。
思い切って、踏み出して
Q.自己紹介をお願いします。
竹内めいです。ずっと青森県弘前市で育って、高校卒業後は秋田公立美術工芸短期大学に入学しました。もともと字や絵を書くのが好きだったのと、高校生くらいの時に雑貨店でデザインの分厚い本を手にとったのがきっかけで、グラフィックデザインに興味が湧き、大学では産業デザイン学科で2年間勉強しました。専攻科でも1年間勉強し、その後は秋田のデザイン企画会社で2年ほど勤めました。そこではJRに関連した仕事をしていて、都心にも配布されるようなページ数も多いパンフレットの制作に携わっていました。地元に戻ってきてからは、弘前のウェブコンサルティング会社でウェブのデザインと制作を8年間行って、現在に至ります。
Q.デザインを志すきっかけとして、昔から絵を描くのが好きだということがあるようですが、幼少期はどんな風に過ごしたんですか?
家族みんなものづくりが好きでして。小さい時に作った切り絵などをアルバムの中に残してくれて、褒めてもらった記憶もあります。習字も習っていたので字を書くのも好きでした。また、小学校の時には写生大会などで絵を描くと賞をもらえたりして、自信に繋がったと思います。
Q.高校生でボランティアに参加した方は少ないと思いますが、参加した動機やきっかけは何だったのでしょうか?
ボランティア募集のフライヤーを見た時に、「制作ボランティア」とあったので挑戦してみたいと思ったのですが、日程が高校の授業と重なっていたのであきらめてしまって…。
代わりに展覧会会期中のボランティアをやってみようと思ったんですが、学校では周囲に一緒にボランティアをやる仲間がいなかったので、ドキドキでした。「やりたいなあ」と思いながらもなかなか踏み出せずにいましたが、興味があったので思い切って応募しました。
いざ参加してみたら、同じ高校の同じクラスの子も参加していて、行ってみたら意外と大丈夫でした(笑)
Q.もともと絵を描くのが好きで、展覧会の制作とかにも興味があったのでしょうか?
展覧会や作品がどのように作られるのか、全く分からなかったんですが、興味だけはあって。せっかく展覧会が弘前で開催されるんだったら参加してみたいと思って応募しましたね。
Q.「奈良さんが好きだから」という訳ではなかったんですね。
そうですね。すごくファンだからというわけではありませんでしたが、奈良さんのことは知っていました。
Q.ちなみにボランティアではどういったお仕事を担当したのでしょうか?
主に看視スタッフをやっていました。お客様が作品に近づきすぎたりしないように声がけをし、作品を守る仕事です。その他には受付の仕事も何度か担当し、入り口でお客様の荷物をお預かりしていました。
Q.看視スタッフをしながらも展覧会をどんな風に見ていたのか気になるのですが、どんな感じがしましたか?
今までに見た展覧会とは違う印象でした。会場の倉庫全体が作品になっていて、入ると独特な印象があって。部屋を移動すると毛色が異なるという感じでした。特に覚えているのは2階にあった船の作品〈golden boat of kathy〉が印象的でした。違う空間というか…。
Q.当時のエピソードをもう少しお聞きしたいのです。看視をしてみて困ったことなどありましたか?
それまではバイトもしたことがなく、接客の経験もなかったので、最初のうちは子どもが作品に近づいてもなかなか声がかけられませんでした。でも、何回か経験するうちにちょっとずつ慣れて楽しくなってきました。
Q.ボランティアに参加してみて一番印象に残っていることはなんですか?
休憩の際の控室での出来事ですね。控室には県外からのボランティアなど色々なスタッフが出入りしていて、そういった人たちから話を聞けたというのは新しい体験でした。参加しなければ体験できなかったと思います。
Q.当時のボランティアと今も交流があるのでしょうか?
意識して交流することはないのですが、弘前にいて生活していると、当時ボランティアをしていた人と偶然出会うこともあります。「あのとき暑かったよね」なんて当時の話をすることもあって、ふとした瞬間に出会うことが面白いですね。はっきりと言葉にしなくても、当時の雰囲気を共有できている感じがします。
新たに広がった自分の可能性
Q.お話を聞いていると印象的な思い出がたくさんあるようですが、その経験から得たと一番感じるものはありますか?
「やってみたい」と思って踏み出して、参加したことで新しい出会いがあって、そこからの繋がりも生まれたことなどが得たものだったのかなと思います。
Q.一歩踏み出したことが大きかったんですね。その経験が今の活動に繋がっていると感じることをお聞きしたいです。
いま取り組んでいるデザインの仕事に活きているかと言われると難しいですが、展覧会で体験した会場全体の雰囲気は体で覚えている感じはすごくあって。その時は感じられなかったんですが、すごい数の人が関わっている展覧会だったし、チラシとかのグラフィックも今見てもおしゃれでカッコ良くて。多くのスタッフが頑張って作っていた展覧会だったんだなと感じます。
Q.ボランティアの経験が内面的な部分に影響を与えたんですね。それを踏まえて、これからやっていきたいことは何かありますか?
これからも美術やデザインに関わっていきたいです。最近参加している子どもたちにデザインを教えるイベントのような仕事も継続して参加していきたいと考えています。参加する子どもの中には絵を描くのが好きな子も苦手な子もいますが、「苦手でも好きならどんどんやっていいよ」とか「自分の思ったように作っていいんだよ」とか、「何でも好きなことを続けていいんだよ」と、子どもたちの背中を押してあげたい気持ちがあります。
Q.現在の自身の制作のことについてもお聞きしたいです。デザインの仕事をしていて楽しいと感じる時はどんな時でしょうか?
お客様も色んなジャンルの方がいらっしゃいます。やりとりをして作っていって、その中で、自分の作ったものを喜んでもらえることがビジネスに繋がり、喜んでいただくことにやりがいを感じます。
Q.弘前市にお住まいとのことですが、弘前で過ごした風景や場所が自身の制作に影響していると感じることはありますか?
地元以外は秋田しか住んだことがなく比較できない部分もありますが、弘前は文化的要素が強い街かなと思いますね。お城(弘前城)の近くに住んでいて、お寺とか歴史的建物が家の周りに多いので、文化的な風景がどこかで影響しているかもしれないと思います。
そして進化する
Q.当時倉庫だった頃の姿といま美術館になった姿をみてどう感じるか、ぜひお聞きしたいです。
見た目は変わっていないので、あの当時の雰囲気のままですが、確実に進化しているというか。中もきれいになって展覧会も次々行われて。すごく変わったという印象はないですが、進化しているイメージがありますね。
ちょうど新型コロナウイルスが流行った時期と開館のタイミングが重なったので、多分本当はもっとたくさんの人が来館するはずだったと思います。これからは市民の人がもっと気軽にどんどん来れるようになったらいいなと思います。奈良展の時は人がたくさん来ていたので、あの賑わいがまた訪れたらいいなと思います。
Q.今回のインタビューでは15年ぶりにボランティアに参加した当時を振り返ったわけですが、いかがでしたか?
あれから凄く時間が経っているので思い出せない部分もありますが、ボランティアに参加しようとした気持ちとかが思い出されます。そこから出会いもあったし、あの時参加して良かったという気持ちです。当時高校生で、ちょっとでもタイミングがずれていたら秋田に行っていてボランティアに参加できなかったと思いますし。夏休みに参加できて、一般的なアルバイトでは経験できない、内容の濃い時間を得ることができました。
当時は自分のことしか考えらなかったので、展覧会全体がどうやってできているのかを想像できませんでしたが、今思うとたくさんの人の力があって開催されていると感じます。奈良展があったから、ここが美術館になったことに繋がっていると確かに感じます。
この日は竹内さんが保管している資料をいくつかお持ちいただいて見せていただきました。看視中の立つ位置を示した資料や、奈良さんが1枚ずつ手書きした「Thank You カード」と呼ばれる葉書など。
当時NPO法人harappaが発行していたフリーペーパーもあり、表紙には竹内さんが高校生の時に描いたイラストが印刷されていました。事務局にイラストを持ち込んで採用してもらったというエピソードからも竹内さんの行動力を垣間見ることができました。
竹内めいさん、ありがとうございました。
※この記事のタイトルとインタビュー部分の作成は、一般から募集した小さな起こりリサーチメンバーが担当しています。
文章:リサーチメンバー(石岡裕貴、葛西鎖織、木村歩、佐々木千晶、中川早智子 ※五十音順)、美術館スタッフ(宮本ふみ)
写真:美術館スタッフ(佐々木蓉子、宮本ふみ)