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【レポート】プレイフルワークショップ「コミュかん 〜展覧会をみて・話して共有する コミュニケーション×鑑賞の時間〜」


展覧会「タグチアートコレクション×弘前れんが倉庫美術館 どうやってこの世界に生まれてきたの?」の関連プログラムとして、演劇的活動を取り入れた鑑賞ワークショップを行いました。



11月9日実施:プレイフルワークショップ「コミュかん 〜展覧会をみて・話して共有する コミュニケーション×鑑賞の時間〜」



日 時:2024年11月9日(土) 13:30-16:00 
会 場:弘前れんが倉庫美術館 スタジオB、展示室
講師:太田歩(演劇ユニット一揆の星)、アシスタント:相馬光、齋藤衡


「どうやってこの世界に生まれてきたの?」という大きくて哲学的なタイトルの展覧会を複数の人たちと鑑賞し、思ったことや感じたこと、印象に残ったことを話し、体を使って表現してシェアする鑑賞ワークショップ。
演劇的手法を取り入れた活動を組み合わせて、コミュニケーションを軸にしながら、アウトプットを通じた鑑賞体験をシェアする試みです。


活動の冒頭に、講師の太田さんから本時テーマと、3つの約束事が伝えられました。

1)「Playful」遊びや演じる(嘘)の時間です(正解や失敗はありません)。
2)「自分の身は自分で守る」これを話したら自分の心が傷つくかも、と思ったら無理に話そうとしなくていいですよ。また体の無理も禁物です。
3)「Yes, and」遊びや嘘を成立させるには、意見を否定せずに、相手の言葉を一旦受け取って、自分の言葉を続けましょう。


自己紹介として、呼ばれたい名前とこの時間に期待することを一言ずつ発表しました。



ウォーミングアップ:人生地図を辿る


展覧会を鑑賞する前のウォーミングアップとして、人生地図を辿る、エイジウォークをしました。

スタジオの床に日本地図を思い浮かべ、1年前、2年前、10年前、20年前…と人生を遡りながら、その時の自分の位置としていたことを思い出してみます。
ついには100年前まで遡り、自分が生まれてくる前のことを想像することで、自分はどこからやってきたのかを参加者それぞれにイメージしてもらいました。

今日(弘前)からエイジウォークがスタート。
生まれてくる前の時間になったら、壁際によって天空から見下ろす気分で他の参加者の動きをみます。



そして、赤ちゃんとして誕生した瞬間の想像へと移ります。首は動かさずに目だけで周りの景色を見たり、足や腰を使わずに寝返りを打ってみたり体で動いてみたりして徐々に自分の体を意識するような、ごっこ遊びをしました。


首が座る前の赤ちゃんになった気持ちで寝転がりました。


エイジウォークの最後は、これまでの人生を振り返って、自分にとって大事な体験や経験を思い出してポーズで共有しました。ウォームアップはここで終了です。


ピアノ(習い事)や、小学生の頃に初めて1人で寝台列車に乗った思い出などがポーズで共有されました。



展示を見てみよう:心のナビゲーターをたずさえて


ウォーミングアップを終えて、いよいよ展覧会鑑賞の時間です。
まずはエントランスにも展示しているペトリット・ハリライ《チキンの仲間》を解説を交えて鑑賞しました。



この作品は鳥の足跡がモチーフになっていて、エントランス以外にも数カ所に展示されています。
作者は幼い頃に祖国で起こった紛争がきっかけで移民となりました。国境を軽々と超えて飛び立っていく鳥の自由さは、作者にとって理想の姿かもしれません。

そこで今回の展示鑑賞では、自分の分身かつ心のナビゲーター役として、折り紙の小鳥をたずさえて展示室を巡ってみることにしました。


参加者の分身であり、心のナビゲーターでもある小鳥たち。1人1羽を手にして展示室を巡ります。


自由鑑賞は30分。鑑賞中は参加者同士のおしゃべりはせず、小鳥にだけ話しかけて良いことにしました。


小鳥を手に持ち、展示室が暗いなどの理由で気持ちが落ち着かないときは、小鳥を撫でてみながら、展示室を巡る参加者もいました。
(上:ピピロッティ・リスト《あなたのお風呂のお湯を飲む》(2013))
(手前:ペトリット・ハリライ《チキンの仲間》(2022)、奥:トゥアン・アンドリュー・グエン《神、棺、交わり》(2019))



言葉で共有:全体で鑑賞体験を振り返ろう


自由鑑賞のあとは5分程度の休憩を挟み、再びスタジオに集合。
展覧会をみて、気になったこと、印象に残ったことなどを、1人3つキーワードにして書き出しました。



ひとしきり書き出したら、車座になって全体でシェアします。


日常・非日常、自由・不自由など逆の印象を抱くこともあれば、作品に見られているような視線を感じたり、ホームや居心地の良さを感じたりする作品もあった、という意見があがりました。



対話+体でアウトプット:グループでフリーズフレームをつくろう


全体で鑑賞体験を振り返りしたのちに、じゃんけんでランダムに1組3人の3グループを作り、「展覧会に新たな彫刻作品を展示するとしたら」をテーマに、静止画のポーズ(フリーズフレーム)を作ってみる活動へと移りました。


グループごとに、「どんな展示だったか」「作品を見ていて、どういう風景やものを想像したのか」「どの章の展示、場所が気になったか」をポイントに話し合い、さらに鑑賞体験を深めていきます。





発表:完成したフリーズフレームを共有しよう



10分ほどグループ活動をし、いよいよ完成した静止画のポーズを発表しました。


1つ目のグループのタイトルは「理想の時間」

鳥に乗った人が、はらっぱでリラックスして寝そべる人に手を振っています。


展示室1の映像作品、ミカ・ロッテンバーグ《宇宙製造機(ガーランドの変種
)》に続くシーンを想像してつくってみました。



2つ目のグループは「輝き」というタイトルでポーズを作りました。

歩く人、走る人、スマートフォンを見る人を表現。人々の目線はあっていませんが、小鳥は同じ方向を向いています。

このグループのポーズは、暗い展示室と明るい展示室の間に展示するイメージで作られました。人同士が直接交流はしていないけど、目に見えないところや心のどこかでは繋がっているかもしれない、という想像をもとに作られました。



3つ目のグループは、「本当は…」というタイトルで作りました。

周りを遮断するようにチラシをじっと見る人、その人に話しかけたそうな人、なんとなく迷っている人の姿と、足元には小鳥が。


こちらのグループは、ヤン・ヘギュ《ソニック コズミック ロープ ー金12角形直線織》に注目しました。この作品は、鈴が連なってできた大きな1本のロープのような構造物が天井から吊り下がった形をしています。
この作品を見た参加者の1人が、展示室の作品が触れないことが気になり、「鑑賞者が鳴らせない/鳴らない鈴には価値があるのか」という問いから、「人も話さないとどんなことを思っているのかわからない」というコミュニケーションの問いへと話題が発展しました。
そこからコミュニケーションのもどかしさやを表したポーズを考えました。



終わり:それぞれに鑑賞体験を消化


最後に感想発表や他のグループへの質問をしたり、話し合いの際に挙がった作品を少し解説したりしてワークショップは終了しました。


「みんなの意見を聞けて良かった」「ゼロからポーズを作ることができてすごいと感じた」などの感想や「ポーズの意図をもう少し聞きたい」といったグループ間の会話が続きました。



プログラムが終わった後も、ワークショップの会場を開放しました。
30分程度その場に残って話をする参加者もいれば、同じグループで活動した参加者同士で改めて展示を見にいくなど、それぞれにワークショップを経て得た鑑賞体験を消化するような事後活動が起こり、それぞれが美術館をあとにしました。






このプログラムでは複数人で展示を鑑賞し、話し、言葉や体の表現(アウトプット)を共有することで、鑑賞体験を深めることを目的に実施しました。

自分以外の人の見方に触れることで、想像が広がり、「もしかしたらこうなのかもしれない…」という解釈の多様さを実感できたのではないでしょうか。



次回のワークショップは…子どもと大人が楽しめる鑑賞プログラム「あそびじゅつかん」


実施日程:2024年12月21日(土)10:30-12:00(開場 10:15)
参加費無料(要当日観覧券)・事前予約優先 *高校生以下は無料
場所:スタジオB、展示室
対象:年長〜小学3年生とその保護者 *子どものみの参加は不可
定員:5組(1組につき保護者を含む最大3名まで)
講師:太田歩(演劇ユニット 一揆の星)、宮﨑充治(弘前大学教育学部教授)

子どもと大人と一緒に作品鑑賞しませんか?展示作品をひとつピックアップして、作品の世界を想像と遊びを通じて味わいます。
演劇教育の手法を取り入れた活動で、作品を見て思ったことや感じたことを体で表現してみましょう。

※プログラム終了後には30分程度、教員向けのアフタートークを実施ます。教員以外の方も参加可能です


申し込みはこちらから↓



子どもも大人も楽しくなるようなプログラムを準備しています!
皆様のご参加をお待ちしております!





(写真:大澤美菜、宮本ふみ)
(文:宮本ふみ)