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【コレクション紹介】ジャン=ミシェル・オトニエル 《エデンの結び目》

本作は、フランスのアーティスト、ジャン=ミシェル・オトニエルが2018年に弘前を訪れ、りんごの美しさに感銘を受けて制作されました。ベネチアンガラスとして有名な「ムラーノガラス」による168個のビーズの連なりによって形作られています。大きな結び目のような彫刻は、今までの彼の発表してきた数々の作品の中でも特に複雑な構造をしている大作で、その中に見られる赤色のビーズは、まさに弘前のりんごから得たイメージが取り入れられています。

タイトル中の「エデン」という言葉は、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、旧約聖書の中で、最初の人類である「アダム」と「イブ」が蛇にそそのかされて知恵の実を食べてしまい、エデンの園を追放されるというエピソードに由来しています。その知恵の実こそりんごであり、知識や知恵のシンボルとして用いられることがあります。

りんごには不老不死や愛、美、永遠といった意味もある反面、禁断や誘惑といった、正反対のイメージとして用いられることもあります。作家もそのような二重の意味を持つりんごに魅力を感じ、そこから得たインスピレーションが作品に反映されています。

当初は昨年の当館開館に併せてお披露目となる予定でしたが、新型コロナウイルスの影響を受けて展示が延期され、現在開催中の「りんご宇宙 — Apple Cycle / Cosmic Seed」に併せて、ついに皆様にご覧いただけることとなりました。

美術館の煉瓦の空間のために作られた本作は、鏡面のガラスによって周囲を映し出すことで、空間に調和しながらも、煌びやかに存在感を放っています。

国際的に活躍するアーティストの視点を通すことで、りんごというごく身近な存在にも、解釈が無限に広がっていることを感じさせてくれる、まさに現代美術の醍醐味とも言える作品です。長期展示作品として、当面の間展示されますので、ぜひご覧ください。

◎石川達紘(弘前れんが倉庫美術館・学芸統括)
[東奥日報「アートの森」2021年5月14日掲載]

ジャン=ミシェル・オトニエル《エデンの結び目》2020 年
弘前れんが倉庫美術館蔵
Photo: ToLoLo studio