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【展覧会レビュー 】 りんご宇宙 — Apple Cycle / Cosmic Seed|嵐の後に残るもの / 外山有茉

「りんごの主題は、どこかで向き合わなければならないものであった」と本展キュレーター三木あき子氏が語るように、展示場所が持つローカルな特色をいかに普遍的なテーマや問題提起へとつなげるかは、アーティストやキュレーターにとって今や定番の課題になった。「りんご宇宙」展も、弘前という土地、元シードル工場という美術館の特性に向き合いつつ、それを外に開いていくことを試みた展覧会だ。

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やや乱暴に分類すると、本展出品作家のうち、もともと以前から素材やモチーフとしてりんごを扱っていたことで招聘されたと思われるのが、河口龍夫、和田礼治郎、雨宮庸介。作品に直接的にりんごが登場することで、かえって、制作における方法論や関心の違いが際立った。いずれもりんごの文字通りの表象ではなく、目には見えないもの、言語や時間を扱うことで、地域性を超えた奥行きを展覧会に与えている。

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実際に弘前をリサーチ・視察したり、市民とワークショップを行ったりして、土地に応えるべく制作したのが、ジャン=ミシェル・オトニエル、ケリス・ウィン・エヴァンス、タカノ綾、潘逸舟だ。オトニエル、ウィン・エヴァンス、タカノの制作が、抽象度が高く非政治的で祝祭的な彫刻や絵画へと結実したのに対して、弘前に縁がありながらも、均質的な日本では「外から来た者」としてカテゴライズされてきたであろう潘は、「外からやってくるものは、いつその土地の固有の文化として定着するのか」という問いを、真摯に投げかけていた。

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また、美術館前庭から展示室2階まで縦横無尽に使い切った笹本晃のパフォーマンスは、場の固有性に応えつつ、空間に新たな息吹を与えた。母/作家としての責任や周囲からの期待とプレッシャーを、温度や気圧、風に例え、40歳を迎えた自らのうちに渦巻く表現者としての葛藤やエネルギーを、化学と日常的な言葉とを行き来する彼女独特の話法で表現した。パフォーマンスはまるで天気予報のように締め括られる。「嵐になるでしょう」と。

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日本各地で現代アートの名を借りた地域振興が乱立し、「リサーチベース」の制作が何ら珍しいことではなくなり、参加型という言葉に飽きている今、アーティストとキュレーターには、一時的な訪問者でありながらも、しかしだからこそ、自身にとって真に切実な問いを通して世界と接続していくことが求められているように思う。

◎外山有茉(十和田市現代美術館アシスタント・キュレーター)


◎撮影/ToLoLo Studio
(1枚目)奥:ケリス・ウィン・エヴァンス《Drawing in Light (and Time) ...suspended》2020 年 弘前れんが倉庫美術館蔵
手前:和田礼治郎《琥珀の井戶》2020 年 作家蔵 Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE
(2枚目)
雨宮庸介《チャールズのかしの木座にりんごの実のなる》 2021 年 個人蔵 作家蔵
(3枚目)
タカノ綾 左:《円舞、りんごの輪、光の輪》2021 年 中:《根源の近く》2017 年
右:《円舞、宇宙の輪、光の輪》2021 年 Courtesy Perottin
(4枚目)
潘逸舟《おにっこのちはりんごジュースの滝》2021 年 弘前れんが倉庫美術館蔵
2021年度 春夏プログラム
「りんご宇宙 — Apple Cycle / Cosmic Seed」

[会期]
 2021年4月10日〜8月29日
[参加作家]
 雨宮庸介、ケリス・ウィン・エヴァンス、河口龍夫、タカノ綾、
 和田礼治郎、+ジャン=ミシェル・オトニエル、笹本晃、潘逸舟
[ウェブサイト]
https://www.hirosaki-moca.jp/exhibitions/apple-cycle-cosmic-seed/