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展覧会アーカイブ&レビュー

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当館にて開催してきた展覧会のアーカイブや、青森県内の他美術館・学芸員に執筆いただいたレビューを紹介。
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記事一覧

3DVRによる展覧会アーカイブ

弘前れんが倉庫美術館では、2020年の開館以来、各展覧会を3DVRで記録し、公開しています。ウェブブラウザを利用して自由に展示空間を鑑賞いただけるとともに、展覧会の解説テキストや動画も併せてご覧いただけます。 ※一部展覧会は公開しておりません 2022年度秋冬プログラム 2021年度秋冬プログラム 2021年度春夏プログラム 2020年度秋冬プログラム 2020年度春夏プログラム 展示していない空っぽの展示室

【展覧会レビュー 】 りんご前線 — Hirosaki Encounters|幽霊はりんごしか食べない / 奥脇嵩大

つまるところ過去・現在・未来は等価である。「りんご前線」はそこで働く。佐野ぬい「明日のテーマ」におけるロッキングチェアは過去と未来を行き来する揺りかご。画業70年を経た作品の青は、輝きと透明さを増す一方で透明ゆえに絵画表層に留まり、画面に不在の奥行き-幽霊をまとわせる。今ここにある進捗と停滞の不思議さを見よ。そのとき本展示は時空間を素材に描かれた作家のタブローそのものとなる。 小林エリカ「旅の終わりは恋するものの巡り逢い」は、誤解を恐れずいえば幽霊をまなざす作品。本作素

【展覧会レビュー 】 りんご宇宙 — Apple Cycle / Cosmic Seed|嵐の後に残るもの / 外山有茉

「りんごの主題は、どこかで向き合わなければならないものであった」と本展キュレーター三木あき子氏が語るように、展示場所が持つローカルな特色をいかに普遍的なテーマや問題提起へとつなげるかは、アーティストやキュレーターにとって今や定番の課題になった。「りんご宇宙」展も、弘前という土地、元シードル工場という美術館の特性に向き合いつつ、それを外に開いていくことを試みた展覧会だ。 やや乱暴に分類すると、本展出品作家のうち、もともと以前から素材やモチーフとしてりんごを扱っていたことで招聘

【展覧会レビュー 】小沢剛展 オールリターン | さよならだけが人生ならばめぐりあう日は何だろう / 工藤健志

 2013年に第1作が発表された小沢剛の「帰って来た」シリーズ。僕はこれまで2015年に資生堂ギャラリーで《帰って来たペインターF》を、2016年のさいたまトリエンナーレで《帰って来たJ.L.》を、2017年の横浜トリエンナーレで《帰って来たK.T.O》を見ている。ペインターFこと藤田嗣治、J.L.ことジョン・レノン、K.T.O.こと岡倉天心の生涯から、アジアとの関係性を小沢独自の土着的視点でとらえ直し、文化も表現領域も異なるアジア各地の様々なクリエイターとの協働によってその

【展覧会レビュー 】Thank You Memory —醸造から創造へ— | クロノトポスの醸造術 / 慶野結香

現代美術が「サイト・スペシフィック」と呼ばれる、場所の固有性を重視するようになって久しい。この場所でしか見られない、ここで見る意義のある作品や展覧会。青森市にあるアートセンターに勤めていても、この地に根付く文化に接触しようとすると小一時間車を走らせ、弘前あたりまで来ることになる。そんな文化の息づく街、弘前に新しい美術館が誕生した。近代産業遺産として約100年の歴史を持ち、国内ではじめて大々的にシードルが造られた煉瓦倉庫が、田根剛によって改修・整備され、美術館の建物自体がグロー